ペンション・民宿の開業|旅館業法の許可と種別の選び方
「ペンションを開きたい。何から始めればいいのだろう」
「民宿なら小規模だし、手続きも軽いのでは」
もしあなたがそう考えているならば、出発点は同じです。ペンションも民宿も、旅館業法にもとづく営業許可が必要です。規模や呼び方で扱いが変わるわけではありません。
そして旅館業法には、「ペンション」や「民宿」という営業種別はありません。定められているのは旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つで、このいずれかで許可を取ることになります。
分かれ目になるのは玄関帳場(フロント)です。旅館・ホテル営業にはフロントまたはその代替設備の設置が義務づけられています。簡易宿所営業にはその義務がありません。住宅を使う形で始めるなら、簡易宿所営業を選ぶのが一般的です。
面積の基準にも緩和が入っています。簡易宿所営業の客室延床面積は33平方メートル以上が原則ですが、一度に宿泊させる宿泊者数が10人未満の施設なら、3.3平方メートルに宿泊者数を乗じた面積以上で許可を受けられます。
ただし、どこでも開けるわけではありません。学校や児童福祉施設等の敷地の周囲おおむね100メートルの区域内では、許可を得られないことがあります。
この記事では、平均稼働率89%・630室の運営実績をもとに、開業までの流れと確認すべき点を、厚生労働省の一次情報から整理します。
※本記事は住宅宿泊事業法(民泊新法)ではなく、旅館業法にもとづく開業の話です。当サイトの他の記事とは適用される法律が異なります。
ペンションも民宿も、旅館業法の許可が必要です
呼び方の違いで制度が分かれることはありません。宿泊料を受けて人を宿泊させるのであれば、旅館業にあたります。
営業の種別は3つです
- 旅館・ホテル営業:施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの
- 簡易宿所営業:宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの
- 下宿営業:施設を設け、1月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業
出典:旅館業法(厚生労働省)
短期の宿泊を想定しているなら、下宿営業は対象外になります。実質的には旅館・ホテル営業か簡易宿所営業かの二択です。
許可を与えるのは知事等です
許可権者は都道府県知事、または保健所設置市の市長、特別区の区長です。窓口は保健所になります。
分かれ目はフロントの設置義務
2つの種別のどちらを選ぶか。判断の軸ははっきりしています。
厚生労働省の手引きでは、旅館・ホテル営業には、玄関帳場(フロント)又はその代替設備の設置が義務づけられているため、住宅を使用して宿泊サービスを提供する場合には、フロントの設置義務がない簡易宿所営業により許可を取得するのが一般的とされています。
出典:民泊サービスを始める皆様へ~簡易宿所営業の許可取得の手引き~(平成30年6月改訂版・厚生労働省)
ただし条例でフロントを義務づける自治体があります
手引きには但し書きがあります。自治体によっては条例でフロントの設置を義務づけている場合があるため、各都道府県等の旅館業法担当窓口に確認するよう促されています。
簡易宿所営業を選べばフロントが不要、と決めてかかると計画が狂います。物件所在地の条例を、設計に入る前に確認してください。
簡易宿所営業の面積基準と、2016年の緩和
簡易宿所営業には構造設備基準があり、そのひとつが客室の延床面積です。
手引きによれば、平成28年4月、衛生水準の確保が可能な範囲において簡易宿所の許可基準が緩和されました。内容は次のとおりです。
- 客室に必要な延床面積の原則は33平方メートル以上
- 一度に宿泊させる宿泊者数が10人未満の施設の場合には、3.3平方メートルに宿泊者数を乗じた面積以上であれば許可を受けられる
たとえば定員6名の計画なら、3.3平方メートル×6名で19.8平方メートル以上となります。小規模なペンションや民宿には効く緩和です。
誤解しないでほしい点
手引きは念を押しています。この規制緩和によって、許可を受けずに民泊サービスの提供ができるようになったということではありません。
面積のハードルが下がっただけで、許可そのものは必要です。
許可が下りないことがあるケース
申請すれば必ず通るわけではありません。手引きでは、許可を得られないことがある場合として次が挙げられています。
施設が構造設備基準を満たさないとき
基準は都道府県等が条例で定める部分もあります。事前相談の段階で担当窓口に確認してください。
申請者が欠格事由に当たるとき
- 破産手続き開始の決定を受けて復権を得ない者
- 禁錮以上の刑、または旅館業法もしくはこれに基づく処分に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から起算して3年を経過していない場合
- 旅館業法第8条の規定により許可を取り消され、取消の日から起算して3年を経過していない場合
- 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過していない者
- 未成年者の法定代理人が上記に該当する場合、法人の役員に該当者がいる場合、暴力団員等に事業活動を支配されている場合 など
設置場所が公衆衛生上不適当なとき
ここは立地の確認に直結します。手引きでは、次の施設の敷地の周囲おおむね100メートルの区域内にあり、その設置によって清純な施設環境が著しく害されるおそれがあるときに許可を得られないことがあるとされています。
- 学校(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、高等専門学校等)
- 幼保連携型認定こども園
- 児童福祉施設(助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター等)
- 社会教育に関する施設(公民館、図書館、博物館など)で都道府県等の条例で定めるもの
物件を押さえる前に、周囲100メートルに該当施設がないかを地図で確認してください。ここで引っかかると、建物の仕様をどれだけ整えても許可に至りません。
他法令を遵守していないとき
消防法、建築基準法等に適合していない場合も許可を得られません。
許可取得までの流れ
手引きが示す流れは4段階です。
- ① 事前相談
- ② 許可申請
- ③ 施設検査
- ④ 許可、営業開始
③では、施設が構造設備基準に適合していることを確認するため、保健所職員等による立入検査が行われます。自治体によっては、許可申請の前に事前審査を行う場合もあります。
手続きの詳細は自治体ごとに異なるため、事前相談の際に都道府県等の旅館業法担当窓口に確認してください。
建築基準法と消防法も並行して確認する
手引きでは、旅館業法以外の手続きにも触れています。
建築基準法については、使用予定の建物が所在する地域において旅館業の立地が禁止されている場合があるとされ、あわせて用途変更の建築確認の手続きが必要となる場合があると示されています。用途変更の手続きの要否にかかわらず、建築基準法に適合させる必要があります。
用途変更の線引きについては古民家の民泊は200㎡が分岐点|用途変更と確認の手順で解説しています。消防設備の考え方は民泊に必要な設備は4つ|消防・建築の要件と確認先を参照してください。
民泊新法との違い
当サイトの他の記事で扱っている住宅宿泊事業法(民泊新法)との違いを整理します。
- 旅館業法の許可であれば、住宅宿泊事業法の年間180日という上限はありません。通年の営業を前提にできます
- 一方で、住宅宿泊事業法にある「住宅」への該当性という要件はなく、代わりに構造設備基準への適合と許可が求められます
- 許可の窓口は保健所。届出ではなく許可である点が、手続きの重さの違いに表れます
なお、自治体が条例で民泊を制限する際には、簡易宿所等に対する制限との整合にも留意することが国から示されています。民泊への規制が強まる地域では、簡易宿所も同様に検討される可能性があります。この点は民泊の規制緩和|緩んだ点と2026年7月の新通知を解説で扱っています。
まとめ
ペンション・民宿の開業について、押さえておきたい点を整理します。
- どちらも旅館業法の営業許可が必要。法律に「ペンション」「民宿」という種別はない
- 種別は旅館・ホテル営業/簡易宿所営業/下宿営業の3つ。短期の宿泊なら実質2択
- 分かれ目は玄関帳場(フロント)の設置義務。住宅を使う形なら簡易宿所営業が一般的。ただし条例でフロントを義務づける自治体がある
- 簡易宿所の客室延床面積は33平方メートル以上が原則。宿泊者数10人未満なら3.3平方メートル×宿泊者数以上
- 学校・児童福祉施設等の敷地の周囲おおむね100メートルの区域内では許可を得られないことがある
- 流れは事前相談→許可申請→施設検査(保健所職員等の立入検査)→許可
開業の相談で多いのが、物件を決めてから立地の制限に気づくケースです。先に確認すべきは、旅館業の立地が禁止されていないか、周囲100メートルに該当施設がないか。建物の仕様を詰めるのは、そのあとで間に合います。
本記事は2026年9月時点の情報です。構造設備基準や手続きは自治体ごとに異なります。物件所在地の保健所で、必ず事前相談を行ってください。
旅館業法で進めるか、住宅宿泊事業法で進めるか。物件の立地と、通年で営業したいかどうかで答えは変わります。判断がつかないところはお気軽にご相談ください。平均稼働率89%・630室の運営を通じて見てきた実務の観点から、確認すべき点をお伝えします。
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