古民家の民泊は200㎡が分岐点|用途変更と確認の手順
「受け継いだ古民家を、民泊として活かせないだろうか」
「ただ、これだけ古い建物だ。どうせ大がかりな手続きと改修が要るのだろう」
もしあなたがそう考えているならば、最初に確かめるべき数字があります。延べ面積200平方メートルです。住宅を宿泊施設に転用する場合、200平方メートル以下であれば用途変更の建築確認手続きが不要になります。
これは2019年(令和元年)6月25日に全面施行された改正建築基準法によるものです。それまでは100平方メートル超で手続きが必要でしたが、200平方メートル超に引き上げられました。空き家等の利活用を進めるための改正で、古民家はまさにその対象です。
加えて、3階建で200平方メートル未満の建築物を宿泊施設等に転用する場合、必要な措置を講じることを前提に耐火建築物等とすることが不要とされました。柱や梁を防火のために覆う大規模な改修が、必ずしも要らなくなったということです。
ただし、手続きが不要になることと、基準を満たさなくてよいことは別です。建築確認の手続きが省けても、建築基準法の規定そのものは守る必要があります。ここを混同すると、後から是正を求められます。
そして古民家には、新しい建物にはない固有の論点があります。検査済証が残っていないこと、既存不適格建築物に当たること、そして物件によっては歴史的建築物として建築基準法の適用除外を受けられること。この3つです。
この記事では、平均稼働率89%・630室の運営実績をもとに、古民家を民泊として活用する際に確認すべき制度上の論点を、国土交通省の一次情報にあたりながら整理します。改修費の話に入る前に決まることがある、というのが結論です。
実家や譲り受けた家屋の活用を考えている方は、ぜひご覧ください。
古民家を民泊にするときの分岐点は「延べ面積200平方メートル」
まず、手続きの要否を分ける基準から押さえます。
200平方メートル以下なら用途変更の建築確認が不要です
国土交通省は、平成30年改正建築基準法(令和元年6月25日全面施行)について、200平方メートル以下の建築物の他用途への転用は、建築確認手続きを不要とするとしています。従来の100平方メートル超という基準が、200平方メートル超へ引き上げられました。
出典:改正建築基準法が6月25日から全面施行されます(国土交通省)/建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)について
一般的な戸建ての古民家は、この200平方メートル以内に収まることが少なくありません。まず図面か登記簿で延べ面積を確認する。これが最初の一手になります。
手続きが不要でも、基準は守る必要があります
ここを取り違える方が多いところです。用途変更の建築確認という手続きが不要になっただけで、建築基準法が求める基準そのものが免除されるわけではありません。
国土交通省のリーフレットでも、小規模な建築物の用途変更の手続きが不要となった旨が示されていますが、これは手続きの合理化です。避難や防火に関する規定への適合は、引き続き求められます。
判断に迷う場合は、着手前に建築士へ相談してください。
3階建・200平方メートル未満の転用で、防火の負担が下がりました
古民家の改修費を押し上げる要因のひとつが、防火のための改修です。ここにも緩和が入っています。
同改正では、耐火建築物等としなければならない3階建の商業施設、宿泊施設、福祉施設等について、200平方メートル未満の場合は、必要な措置を講じることで耐火建築物等とすることを不要とするとされています。
国土交通省の改正概要では、小規模な戸建住宅(3階建・200平方メートル未満)を旅館・物販店舗等に転用する場合、柱・はりなどの防火改修が不要となる旨が示されています。
「必要な措置を講じることで」という条件が付いている点が重要です。在館者が迅速に避難できる措置を講じることが前提になります。何をもって必要な措置とするかは設計上の判断になりますので、建築士と確認してください。
検査済証が残っていない古民家はどうするか
築年数の古い家屋では、検査済証が見当たらないことがよくあります。これは古民家活用でよく詰まる論点です。
「既存建築物の現況調査ガイドライン」が整備されています
国土交通省は、既存建築物の増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をしようとする場合に、建築士が建築基準法令の規定への適合状況を調査するための手順・方法等を示すガイドラインを公開しています。
かつての「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」は、令和7年4月1日をもって「既存建築物の現況調査ガイドライン」に統合・一本化されました。
調査報告書は検査済証の代わりにはなりません
ここは正確に理解しておく必要があります。国土交通省は、このガイドラインにもとづく法適合状況調査の報告書について、検査済証とみなされるものではないが、増改築時の既存不適格調書の添付資料として活用することが可能としています。
「調査を受ければ検査済証が手に入る」わけではありません。あくまで、手続きを前に進めるための資料が整うということです。この違いを押さえておくと、費用と時間の見通しが立てやすくなります。
既存不適格建築物としての扱い
建てられた当時の基準には適合していたが、その後の法改正で現行基準に合わなくなった建築物を既存不適格建築物といいます。古民家の多くがこれに当たります。
建築基準法では、既存不適格建築物について、一定の範囲内の増築等や用途変更を行う場合には、適用されていなかった規定を引き続き適用しない(既存不適格を継続する)という、遡及適用の緩和措置が講じられています。
一方で、平成30年改正では既存不適格建築物に係る指導・助言の仕組みが導入され、維持保全計画の作成が必要となる建築物等の範囲が拡大されています。緩和と管理の両方が動いている点を押さえておいてください。
どこまでが「一定の範囲内」に当たるかは、物件ごとの判断になります。建築主事または指定確認検査機関に確認してください。
歴史的建築物として建築基準法の適用除外を受けられる場合があります
古民家ならではの制度です。
国宝・重要文化財等は自動的に適用除外になります
国土交通省の資料では、国宝、重要文化財等について、建築基準法第3条第1項第1号・第2号により自動的に建築基準法が適用除外となる旨が示されています。
それ以外は自治体の条例が必要です
国宝等以外の歴史的建築物を適用除外とするためには、地方公共団体において文化財保護法にもとづく条例または独自の条例を定める必要があるとされています(建築基準法第3条第1項第3号)。
国土交通省は「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」を策定しており、神戸市・京都市・横浜市・兵庫県・福岡市・川越市・鎌倉市などの条例事例が公表されています。
出典:歴史的建築物の活用促進に向けた建築基準に関する連絡会議(国土交通省)/「歴史的建築物の活用に向けた条例整備ガイドライン」を策定しました
適用除外でも、代替措置と維持管理は必要です
適用除外は「何もしなくてよい」という意味ではありません。国土交通省は、建築基準法の適用を除外する代わりに、安全上、防火上及び衛生上の支障が生じないよう、必要な代替措置を講じるとともに、適切に維持管理することが極めて重要としています。
お持ちの古民家がこの制度の対象になり得るかは、物件所在地の自治体に条例があるかどうかで決まります。文化財や景観を担当する部局に確認してください。
どの制度で運営するかを、改修の前に決める
建築の話と並行して、宿泊事業としてどの制度を使うかを決める必要があります。
住宅宿泊事業法にもとづく民泊では、年間提供日数の上限は180日とされ、人を宿泊させる日数が180日を超えないものと定義されています。また、条例による住宅宿泊事業の実施の制限が設けられており、区域や期間が制限される場合があります。
出典:住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?(民泊制度ポータルサイト)
通年で貸し出したい場合は、旅館業法にもとづく許可(簡易宿所営業など)の検討が必要になります。どちらを選ぶかで求められる設備も手続きも変わるため、改修の設計に入る前に保健所へ事前相談してください。
改修費の見積もりを取る前に確定させること
古民家の改修費は、建物の状態・規模・立地・選ぶ制度によって大きく変わります。相場という形でお伝えできる性質のものではありません。
ただし、見積もりの金額が動く前に、先に決まることがあります。次の3点です。
- 延べ面積が200平方メートル以下かどうか。用途変更の建築確認が要るかどうかが決まります
- 検査済証があるかどうか。なければ現況調査から始めることになり、工程と費用の前提が変わります
- どの制度で運営するか。民泊新法か旅館業法かで、求められる設備が変わります
この3点が決まらないまま工務店に相談すると、前提の違う見積もりが並び、比較できません。順番を逆にしないことが、遠回りを避ける方法です。
確認先の窓口
古民家の民泊活用は、複数の窓口が関わります。
- 建築主事・指定確認検査機関・建築士:延べ面積と用途変更、既存不適格の扱い、現況調査
- 保健所:民泊新法の届出か旅館業法の許可か、必要な設備
- 自治体の住宅宿泊事業担当窓口:条例による区域・期間の制限
- 消防本部・消防署:消防用設備、消防法令適合通知書
- 自治体の文化財・景観担当部局:歴史的建築物の適用除外に関する条例の有無
制度は改正されますし、条例は自治体ごとに異なります。この記事の内容を前提にしつつ、必ず物件所在地の窓口で最新の取り扱いを確認してください。
まとめ
古民家を民泊として活用する際の要点を整理します。
- 用途変更の建築確認が必要になるのは延べ面積200平方メートル超。2019年6月25日施行の改正で100平方メートル超から引き上げられた
- 3階建・200平方メートル未満の転用は、必要な措置を講じることで耐火建築物等とすることが不要
- 手続きが不要になっても、建築基準法の基準そのものは守る必要がある
- 検査済証がない場合は既存建築物の現況調査ガイドラインにもとづく調査。報告書は検査済証とはみなされないが、既存不適格調書の添付資料として使える
- 国宝・重要文化財等は建築基準法の適用除外。それ以外は自治体の条例が必要で、適用除外でも代替措置と維持管理は求められる
- 民泊新法なら年間180日の上限。通年営業を望むなら旅館業法の検討が必要
古民家の活用でつまずく原因の多くは、改修の話から入ってしまうことにあります。先に決まるのは延べ面積と検査済証の有無、そして制度の選択です。この3つが定まれば、見積もりは比較できる形で出てきます。
物件の条件を踏まえた進め方については、私たちにもご相談いただけます。平均稼働率89%・630室の運営を通じて見てきた実務の観点から、順序立ててお伝えします。
物件の条件によって、必要な手続きも確認先も変わります。ご自身の物件で何が要るのか、判断がつかないところはお気軽にご相談ください。平均稼働率89%・630室の運営を通じて見てきた実務の観点から、確認すべき点をお伝えします。
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