【実録】お見積りに、あえて返信しませんでした。~「部分代行で副業民泊」が法律とコストの前に成り立たない理由~

はじめに:お見積りに、あえて返信しないことがあります
私たち「民泊パートナー」には、お問い合わせフォームから日々たくさんのご相談が届きます。運営代行を生業にしている以上、お見積りのご依頼は本来ありがたいものです。それでも、あえてご返信を差し上げないことがあります。
理由はひとつです。その物件では、どう計算しても赤字になると分かってしまったからです。
もちろん、ご契約いただければ私たちには手数料が入ります。しかし、オーナー様が赤字を垂れ流しながら「こんなはずじゃなかった」と後悔される姿を思えば、その数字をお送りすることはできませんでした。今にして思えば、赤字になる理由をきちんとお伝えすべきだったという反省もあります。
今回は、その方から再びお電話をいただいた際の実際のご相談内容をご紹介します。副業として民泊を始めたいA様に対し、私たちが何をお伝えし、なぜ別の道をご提案したのか。民泊の「今のリアル」がそのまま詰まった事例です。
ご相談の背景:元旅行業のA様が描いた副業プラン
A様は京都に隣接するエリアにお住まいで、以前は旅行会社にお勤めだった方です。その経験を活かし、副業として民泊事業を始められないかと1〜2ヶ月かけてご自身で調査を重ねてこられました。
検討されていた物件と条件
ご相談いただいた物件の条件は、次のようなものでした。
- 賃貸物件で、家賃は月5万5千円
- 広さ約80平米の5LDK、最大6名の宿泊を想定
- 駅から徒歩8分、駐車場あり
- 初期投資は200万円程度を想定
- ご本人は居住しないため、家主不在型での運営
A様がお考えだったのは、「完全代行では手数料が高くて採算が合わないので、一部の業務だけを委託したい」というプランでした。チェックイン対応や緊急時の対応だけをプロに任せ、清掃などご自身でできることは自分で行う。固定料金制で費用をコントロールしながら、副業として利益を出したい——。
合理的なお考えだと思います。ご自身で調べ、完全委託では赤字になるというシミュレーション結果まで出されたうえでのご相談でした。実際、その計算はまったく正しいものでした。
しかし、このプランには二つの壁がありました。ひとつは法律の壁、もうひとつはコストの壁です。
第一の壁:「部分代行」は、法律上できません
最初にお伝えしなければならなかったのは、A様のご希望が法的に成立しないということでした。
家主不在型には、全面委託の義務がある
A様はその物件にお住まいにならないため、運営形態は「家主不在型」になります。そして民泊新法(住宅宿泊事業法)では、家主不在型の住宅について、登録された住宅宿泊管理業者へ管理業務を委託することが義務づけられています。
つまり「チェックイン対応だけお願いして、あとは自分でやる」という部分的な委託は、制度上そもそも選べないのです。ここは代行会社の料金プランの問題ではなく、法律そのものの要件です。
「なんとかなりませんか」と言われても、なんとかできません。できないものを「できます」と言って契約を取り、後から行政の指導を受けるようなことになれば、困るのはオーナー様です。私たちは、法律上できないことは、はっきりできないとお伝えします。
なお、管理業者へ委託したうえで、契約の中でオーナー様に担っていただく範囲を整理し、その分の手数料を調整するという設計は可能です。ただしそれは「委託しない」こととはまったく別の話であり、法的な責任の所在は管理業者にあります。この違いは、必ず理解しておいていただきたい点です。
第二の壁:清掃コストの高騰という「今」の現実
仮に法律の問題がなかったとしても、この物件には収益上の大きな課題がありました。清掃コストです。
80平米の清掃は、1回1万円〜1万5千円
80平米・5LDKという広さは、宿泊人数を多く取れる反面、清掃の負担が跳ね上がります。1回の清掃で1万円から1万5千円程度が相場です。しかもこの金額は、ここ半年で急激に上がっています。人件費の上昇と人手不足が直撃している分野だからです。
宿泊料金から清掃費を差し引くと、手元にはほとんど残りません。私たちはこれを「清掃コスト負け」と呼んでいます。広い物件で安い単価しか取れない場合、泊まれば泊まるほど利益が薄くなるという、逆転現象が起きてしまうのです。
「自分で清掃すればいい」というお考えもあります。しかし副業である以上、毎回のチェックアウトに合わせて現地へ向かうのは現実的ではありません。そして先ほどの通り、家主不在型では管理業務の委託が前提になります。
第三の壁:180日しか営業できないのに、家賃は365日分
もっとも大きな構造的な問題が、これです。
民泊新法での運営には年間180日という営業日数の上限があります。一方で、賃貸物件である以上、家賃は365日分を払い続ける必要があります。
月5万5千円の家賃は、一見すると手頃に思えます。しかし営業できるのが半分の日数だとすれば、実質的な家賃負担は倍になると考えなければなりません。稼働できない半年分の家賃も、営業できる180日の売上から回収しなければならないからです。
ここに清掃コスト、光熱費、OTAの手数料、管理委託費が重なります。私たちが「賃貸物件での民泊新法運営は、事業として成立させるのが非常に難しい」と申し上げるのは、この構造があるからです。
参考までに申し上げると、相続などで家賃負担のない物件をお持ちの方ですら、民泊新法の範囲では収支がトントン程度というのが実情です。家賃を払いながら、となれば、その難しさはご想像いただけると思います。
「京都に近い」は、強みになるのか
A様がこの物件の強みとして挙げられたのが、「京都に近い」という立地でした。駅から徒歩8分、駐車場つき、6名まで宿泊可能。条件だけを並べれば、たしかに魅力的に見えます。
しかし、旅行者の行動を考えてみてください。京都を目的に来た旅行者は、京都に泊まりたいのです。
隣接エリアの宿が選ばれるのは、京都の宿が満室のときか、よほど安いときに限られます。つまり「安さ」でしか選ばれないということです。そうなれば必然的に価格競争に巻き込まれ、単価は下がります。単価が下がれば、先ほどの清掃コスト負けが現実になります。
元旅行業のA様だからこそ、立地の価値を冷静に見ていただけると思い、このことは率直にお伝えしました。「近い」ことと「選ばれる」ことは、まったく別の話なのです。
私たちの持論:「丸投げして利益が出る物件」でなければ、事業の魅力はない
ここまでお読みいただくと、ずいぶん厳しいことばかり言う代行会社だと思われるかもしれません。その通りです。ただ、そこには一貫した基準があります。
完全に丸投げしても利益が出る。そのくらいの物件でなければ、事業としての魅力はない。
これが私たちの持論です。自分で清掃し、自分でゲスト対応をして、ようやくトントンになる事業は、事業ではなく労働です。しかも副業であれば、本業の合間を縫って動くことになります。体調を崩したら、その時点で運営が止まります。
「手数料を削れば黒字になる」という発想は、裏を返せば収益の余白がその程度しかない物件だということです。余白のない事業は、清掃費がもう一段上がっただけで赤字に転落します。現に清掃費はこの半年で上がり続けています。
加えて、大阪や東京では民泊物件の値崩れも起きています。供給が増え、単価が下がっている地域があるということです。こうした市況の中で、余白の小さい計画に踏み切るのは、あまりにリスクが高いと言わざるを得ません。
それでもやりたい、という方へ私たちがご提案したこと
「できません」で終わるなら、コンサルティングとは呼べません。A様には、次のような選択肢をご提案しました。
① 簡易宿所(旅館業)が取れる物件を探す
180日の制限がそもそもの足かせであるならば、365日営業できる簡易宿所を前提に物件を探すという考え方があります。用途地域や消防設備などのハードルは上がりますが、家賃を365日払うのであれば、365日営業できる形を目指すほうが理にかなっています。
② 利回りの見込める物件へ投資する
賃貸で薄利を追うのではなく、収益性の見込める物件そのものを取得するという道です。私たちがご紹介できる大阪市内の民泊物件には、初期費用300万円〜1500万円程度で利回り12%程度が見込めるものもあります。A様がご想定されていた初期投資200万円とは規模が異なりますが、「事業として成立するか」という一点で比べれば、検討する価値は十分にあります。
③ まずはご自身で清掃費の相場を確かめる
私たちの言葉を鵜呑みにしていただく必要はありません。検討中のエリアで、実際に清掃を依頼するといくらかかるのか。ご自身で見積もりを取っていただくのが確実です。その数字を宿泊料金の想定から引いてみれば、事業として成り立つかどうかはご自身で判断できます。
あわせて、家主不在型における管理委託の要件についても、あらためて資料をお送りすることをお約束しました。法律の話は、口頭だけでは正確に伝わりにくいからです。
まとめ:私たちの流儀
今回のご相談で、私たちがお伝えしたことを整理します。
- 家主不在型では、管理業務の委託が法律上の義務。「部分代行」は選べない
- 80平米クラスの清掃は1回1万〜1万5千円。しかも上昇が続いている
- 営業180日に対し家賃は365日分。実質の家賃負担は倍と考える
- 「京都に近い」は、安さでしか選ばれない。価格競争に入りやすい
- 丸投げして利益が出る物件でなければ、事業としての魅力はない
私たちは運営代行会社ですから、ご契約が増えることは当然ありがたいことです。それでも、赤字になると分かっている計画に「やりましょう」と言うことはありません。オーナー様の資金と時間を預かる以上、都合の悪い数字ほど先にお伝えするのが筋だと考えています。
民泊は、条件が揃えば本当に良い事業です。だからこそ、条件が揃っていないときに正直でありたいのです。「やめたほうがいい」と申し上げるのは、いつか「やってよかった」と心から言っていただける日のためだと思っています。
お持ちの物件で民泊が成り立つのかどうか、判断に迷われている方は、どうぞ遠慮なくご相談ください。厳しい結論になることもありますが、その理由まで含めて、包み隠さずお伝えします。
※ 本記事は実際のご相談をもとに再構成したものです。お客様が特定されないよう、地域や物件の詳細など一部の情報を変更・省略しています。また、法令の解釈や運用は自治体により異なる場合があります。最終的なご判断は、必ず管轄の行政窓口にご確認ください。